「大切なのは誠実であること」。皇室御用達の老舗与儀美容室がお客さまから学んだ“一流の気遣い”
「お客さま目線」を大切にする与儀美容室がお客さまから学んだ素敵な生き方
長年通っていただいているある奥さまのお振る舞いも、温かいお気遣いを感じさせるものです。どなたもご存知の、ある大企業のトップの方の奥さまなのですが、着付けでいらっしゃる時はいつも大きな風呂敷包みをご自身で抱えていらっしゃいます。
当然、入り口でオークラのベルボーイがお持ちしようとするのですが、「私はこれくらい運動した方がいい」と、ニコニコとおっしゃって、二階の美容室までご自分で運ばれます。
その奥さまが出席されるような結婚式は大変豪華でVIPも数多く出席されますから、指名の多い母が汗だくで廊下を走り回っても、なかなか順番が回らずお待たせしてしまうこともあります。そんな時、奥さまは怒ることなく、「先生、お疲れでしょ? 今日は私、先生じゃなくてもいいわよ」と、母を気遣う言葉すらかけてくださるのです。申し訳なさとありがたさに涙が出てしまうほどでした。
このように、私どもの美容室には、本当にさまざまな立場のお客さまがいらっしゃいますが、立場が上であればあるほど、相手の立場の上下にかかわらず誠実に接される方が多いように感じます。
母が96歳になられる三笠宮妃百合子殿下とお話をさせていただいていた時のこと。宮中のことで分からないことがありお尋ねすると、翌週お出ましになった時にはお調べいただいたことを小さなメモにびっしりと書いてお持ちくださいました。妃殿下が、母のような、いち美容師に対してそこまでしてくださるなど思いもよらぬこと。その時は母も恐縮しきりでした。
また、こんなこともございました。妃殿下と同じ時間にいらっしゃる学生時代のお友達がいらっしゃいます。妃殿下と同じく90代でいらっしゃるのですが、かならずイヤリングとネックレスとブローチをお洋服のお色にしっかりと合わせて、大変おしゃれな装いでお越しになります。
ご挨拶を済まされた後、妃殿下が母に「あの方はいつもイヤリングをきちんと揃えていらっしゃるわね。」とおっしゃいました。
「左様でいらっしゃいますね。いつもお考えになってらっしゃいますね」と母がお答えしますと、妃殿下は大変感心したご様子で、「お見習いしなければいけないわね」とおっしゃったそうです。
華族としてお生まれになり、現在は皇族最年長でいらっしゃる百合子妃殿下の、他の方を「お見習いしなければいけない」という姿勢を知った母は、その誠実なお話ぶりに心から驚き、ますます尊敬の念を強くしたと申します。
人によって態度を変えたり、礼儀を欠いたりするのは美しいものではありません。一番大切なのは、どなたにも誠実であること。そういったことを、妃殿下をはじめ、お客さま方を通じて学ばせていただきました。
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戦前、銀座の「資生堂美容室」で働いていた初代・与儀八重子氏が1948年、焦土となった銀座の一角に「シャンプーができる美容室」として開業したのが与 儀美容室のはじまり。その後、丁寧な仕事ぶりや革新的な技術の導入、さまざまな縁も重なって宮家が通うようになり、その後、順宮厚子内親王殿下(池田厚子 さま)の婚礼の支度などを任されるようになる。さらに紀子さまの婚礼支度、雅子さまの婚礼支度、眞子さまや佳子さまの式典や晩餐会でのお支度など、皇室か ら信頼される一流美容室に。さらに与儀美容室は、縁あって山中教授や本庶先生など、ストックホルムで行なわれるノーベル賞受賞者の授賞式支度もされていま す。
そんな一流美容室でありながらも、モットーは「お客様目線」。例えばカラーで白髪を隠そうとしている客に対してカウンセリングし、白髪を活かす「グレーヘ ア」を提案するなど(※そのままカラーをすれば、当然カラー料金が利益になるが、個人の髪質やスタイルなどを踏まえ、客のためにならないことはしない=利 益のみを追求することはしない)、偉ぶることのない仕事ぶりはテレビなどでも特集されています。
本書は皇室御用達ながらも、けして高飛車になることなく地に足をつけた仕事ぶりで高い評価を得ている与儀美容室の「仕事の流儀」を紹介。さらに三代目であ る与儀育子氏が考える将来の展望なども含め、あまり語られることのなかった、与儀美容室の「今まで」と「これから」にも迫ります。